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多くの生体機能には約24時間を一周期とする概日リズムが認められ、その本体は視神経が交差する視交叉上核)に位置しています。近年、これら概日リズムは時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群が約24時間周期で発現の増減を繰り返すことによって引き起こされることが明らかになってきました。

 一方、医薬品適正使用の向上を目指し、投薬時刻により薬の効果が大きく異なることもわかってきました(時間薬理学:chronopharmacology)。最近では、生体リズムを考慮した時間制御型DDS(drug delivery system)の開発、服薬時刻により処方内容を変更した製剤の開発や、生体リズム調整薬の開発なども進められています。我々もまた、育薬の視点から、疾患症状に日周リズムが認められ、投薬時刻により効果や副作用が異なることを明らかにしてきました。薬の効果や副作用の程度は投薬時刻によって変化することの原因としては、レセプターの機能や、神経伝達物質などの生体の感受性 吸収、分布、代謝、排泄などの薬物動態の日周リズムなどが関与しています。我々はこのような体内時計の分子機構を基盤した医薬品の至適投薬タイミングの設定法の開発を行っています。

 一方、創薬の視点から、生体リズムは、生活パターン、治療状況、疾患の症状など様々な要因により影響されることに着目し、生体リズム障害を回避するための投薬設計を構築しました。また、種々の薬物が体内時計機構に作用し、生体リズムの位相をシフトさせることに着目し、生体リズム調整薬の探索研究を行いました。さらに現在では、効果の増強および副作用の軽減を目指し、服薬時刻により処方内容が異なる製剤の開発や、生体リズムを考慮した時間制御型DDS (drug delivery system)の開発を進めています。

 しかし、時間治療のさらなる展開を図るには、これまで蓄積された時間薬理学的所見を体系化していく必要があります。現在までのところ、投薬時刻の重要性が認められている医薬品として降圧薬、高脂血症治療薬、気管支喘息治療薬、副腎皮質ホルモン、利尿薬、消化性潰瘍治療薬、睡眠薬などがあります。

 一方、がん化学療法領域では病態が複雑であることから時間治療はあまり施行されてませんが、細胞のがん化により中枢から末梢の生体リズムの制御機構が変化すること。それと関連して末梢の細胞内環境が変化することなどが明らかになっています。実際、シフトワーカーなどで生活スタイルが変化している場合には発癌リスクが高まることが指摘されており、その機序として、中枢から末梢の生体リズムを制御している神経伝達物質とペプチドホルモン、増殖因子およびグルココルチコイドなどの細胞外シグナル伝達のリズムが変化していることなどが考えられています。また、実験動物レベルにおいてですが、時計遺伝子の機能欠損によっても発癌リスクが高まることが示されています。以上のように「がん」と体内時計との関連性は明らかにされつつあります。今後、発がんの過程で体内時計の分子機構の制御がどのように変化していくかを詳細に検討することにより、疾患時における分子時計の役割が解明されるものと思われます。

 現在、当研究室では、抗がん剤を中心に体内時計の分子機構を基盤にした時間薬物送達方法の構築および体内時計に作用する薬の探索と創薬を通して、時間生物学の実践的臨床応用への道を切り開くことを目的に、以下の研究を実施しています。


(1)薬の作用や体内動態の日周リズムを制御している要因を体内時計の分子機構の側面から解明し、それをリズムマーカーとした時間薬物送達方法の開発



(2)新規副作用(時計遺伝子の変容)を探索し、それを克服するための時間薬物送達方法の開発



(3)体内時計に作用する薬の探索と生体リズム(生体内環境)を操作することによる時間薬物送達方法の開発



(4)生体リズムを考慮した時間薬物送達システムの開発



(5)創薬から医薬品適正使用に至るシステムの構築

 これらの研究は、大学の研究室のみならず製薬企業や医療施設との共同で展開し、時間生物学的所見を創薬および医薬品適正使用に応用するシステムの構築を目指しています。